10/5 書―「キッチン

 サッカーをしっかり観てレポートを書く時間が、どうしてもとれないので、移動時間中に読んだ本で頭に浮かんだことをちょっとだけ書きます。
 タイトルの最初に「書」とつけておきますので、興味がない方は読まないでください。

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 甥が高校生になった時に、お祝いとともに本を5冊プレゼントした。
 山田詠美「僕は勉強ができない」篠原勝之「人生はデーヤモンド」村上春樹「風の歌を聴け」椎名誠「わしらは怪しい探検隊」そして吉本ばなな「キッチン」だった。

 もっと普通に「こころ」にするだとか、アカデミックに「変身」や「罪と罰」にするとか、中原中也とかアルチュール・ランボーとか、まあいろいろと選択肢はあった。しかし、活字に親しめ、なおかつ「こんな人生もOKなんだ!」と思えるような、実用的な小説とエッセイを織り交ぜた。(親はなんと思うかわからないけれど)クマさんの「人生はデーヤモンド」なんかは、僕がゲージツ家を目指していた次代のバイブルなのだ。

 その甲斐あってか、甥は大学へも行かずに路上の歌人となってしまったようだ。ヤツも、なかなかやるじゃあないか。うん。

 まあ「キッチン」には、そんな思い出がある。

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 久しぶりに通勤のようなことをはじめて、車中の慰みになにかを持っていかなくちゃ、という強迫観念に襲われてバタバタと手に取ったのが「キッチン」だった。きっと10回目くらいの再読なのだけど、好きな本は別に問題ない。
 車中で読みながら「しまった」と酷く後悔した。僕はこの本を読むと、かなりの確率で泣いてしまうからだ。目を瞬かせて、必死の思いで涙をこらえて、なんとか読了。

 この当時の吉本ばななは、もう本人が丸ごと出てきているので、実にパンチがある。(体当たり小説って感じもする)特にこの本の中にある「キッチン」なんかは、句読点の打ち方もヘンだったり、言葉の流れも稚拙だったりするんだけど、こうフィジカル的にぐっと来るものがある。
 それは若さゆえのものなのだろうけど、その瑞々しさだけでは捉えきれない、彼女のセンスがとてもチャーミングで、僕はけっこう好きなのだ。

 秋の気配がはじまり、切ない気持ちを愉しみたくなった人。
 上質の寂しさを召し上がれ。