4/6 少女の指し示す先 

 先日、こんな記事を新聞で見つけた。この春、中学校を卒業したばかりの女性アスリートの言葉だ。合宿や遠征で不在になることが多かった学校生活について語っている。

「学校にいないから、もし私が一人だけ仲良しを作ったら、私がいない時にその人は一人になる。女の子って複雑。だから特定の人ではなく、できるだけ皆と遊んだ」

 頭がよく、強い女の子だ。
 特に「女の子って複雑」と煩雑さを感じながらも、クラスメイトが受けるであろう孤独という痛みを事前に感じとって、自分が一歩引きながらバランスを取ろうとする謙虚な姿には感心してしまう。それも、全国的に知名度のある年代トップの実力を持つ少女なのに…

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 中田はかつて代表チームに対して、このチームにはコミュニケーションが足りないと言った。

 監督からは決め事が指示されない。合流は直前だから話し合う時間的余裕もあまりない。だから、話せる時に、ボールが欲しい時ボールを出したい時などを遠慮せずにお互い要求しあいたい。選手間のルールや決め事も作っておきたい。しかし、それはなされない。


 確かにそうなんだろうな、と思う。
 代表チームがどうなのかは知らないけれど、サッカー選手の集団的コミュニケーション能力のレスポンスの低さは容易に想像がつく。1対1であれば問題なく話はできる。しかし、集団に押し込まれるとなかなか主張ができなくなる。
 その中でしばらく待っていると、そのうち強い発言力を持った選手とその他の選手という構図が生まれてくるだろう。それが監督対選手の構図とまったく同じだからだ。これは旧体育会の抱える悪しき遺伝子でもある。(今は考えさせること、言わせることを指導者は重視しているけど)


 もちろん、いつまで経ってもコミュニケーション不全というわけではない。(一般社会同様、中にはそういう選手もいるだろうけど)だいいち、コミュニケーションが通っていなければ、集団で代表合宿を抜け出して遊びに行けるはずはない。
 ある程度一緒にいる時間。それだけでいいのだ。そうすれば、それなりに主張も要求も、果てには夜遊びの誘いだってできる。


 中田がなかなかコミュニケーションがとれないのは、日程的にしょうがないこととは言え、チームに合流するのが試合直前だということが大きな理由だと僕は思う。

 だいいち、選手でさえも尻込みしてしまうようなオーラをまとっているのだ。そのうえ、左手には正論を右手には理想を携えている。意見だって要求だって言いにくい。
 そりゃあ無理だよ…。


 もし、この状態を治したいのだったら、試合の数日前にチームに合流すること。それができない場合は、招集を受けないという方法だってある。
 もしくは、今までベテランの選手たちがしてきたように、中田が自分の立ち位置をぐっと下げて、選手たちの要望を吸い出す役目をしてみたらどうだろうか。今までいろいろと話を聞いてきた中で、コミュニケーションが良いチームはベテランの努力がとても目立つ。聞いてみると、若手が主張できるような雰囲気をベテランが用意していることがわかる。
 いろいろやらせてしまって申し訳ないとは思っているのだけど、中田もそろそろそんな仕事をしてもいい年頃なのではないか?

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 自分の信念や正義を貫き通す孤高の強さはプロとしてとても重要だ。しかし、仲間の弱さを庇い逆に転じる強さだって必要なんだよ―。
 15歳の卓球少女の言葉が指し示す先に、そんな教えが隠れていたのではないだろうか。